研究テーマ

環境汚染物質分解能をもつ土壌細菌の単離とそれら土壌細菌を用いた環境汚染修復技術の開発

1.Sphingomonas bisphenolicum AO1株のビスフェノールA(BPA)分解能の解析

Sphingomonas bisphenolicum AO1株は、つくば市の田畑土壌より単離されたBPA分解菌である。これまでに多くのBPA分解菌が単離されているが、分解経路および(一部ですが)分解酵素遺伝子が解明されているのは本菌株のみである。我々の研究室ではAO1株のBPA分解能に着目し、BPA分解系の解明、BPA分解酵素遺伝子のクローニング、BPA分解の効率化を試みてきた。これまでの研究成果からAO1株に内在しているプラスミドであるpBAR1にBPA分解酵素遺伝子がコードされていることを見出している。さらに、BPA汚染モデル土壌を研究室で作製し、AO1株を用いたBPA汚染土壌の環境修復実験も行っている。今後、pBAR1の遺伝子構造の解析を行うとともに、分子育種によるAO1株のBPA分解能のさらなる効率化を試みる予定である。

2.Sphingomonas bisphenolicum AO1株の環境修復能の解析

これまでの我々の研究で、AO1株は、BPAおよびその派生化合物だけではなく、フェノール系化合物、ビフェニル系化合物、有機塩素系化合物などの分解能も有している。これらの分解経路およびを明らかにし、AO1株の適用範囲の拡大に努める。

3.油脂分解菌やバイオサーファクタント生産菌を用いた油脂成分の浄化に関する研究

毎年のように報道されるタンカー事故による水環境での油汚染は、水環境の富栄養化だけでなく、悪臭の発生等、生態系に大きな影響を及ぼしている。また、都市部では多量の油が食用や産業用に利用され、廃油脂の回収が困難な状況では、未処理の油が排水系に流出し、ヒトの生活環境の悪化に繋がっている。このため、適切な油脂処理が必要となる。我々はこの処理に微生物の油脂分解能の利用を検討している。そこで、油脂分解に関与するリパーゼや油脂の可溶化に貢献するバイオサーファクタント生産菌の単離とその利用に向けた研究を行っている。

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抗菌剤耐性菌の特性と抗菌剤耐性要因の解析、ならびに耐性菌制御技術の構築

1.抗菌性界面活性剤耐性を示す大腸菌変異株の特性解析

一部の陽イオン性界面活性剤はヒトに対して比較的安全な抗菌剤として使用されている(抗菌性界面活性剤)。医療現場では消毒剤に用いられている逆性石鹸などがこれにあたる。一般には、第4アンモニウム塩に属し、塩化ベンザルコニウムや塩化セチルピリジニウムが有名である。我々は、抗菌性界面活性剤の一つである臭化セチルトリメチルアンモニウム塩(CTAB)の作用に着目し、大腸菌に及ぼす影響を検討している。その一つにCTABに対する耐性化が観察され、この耐性化の原因を解析している。現在までに、低濃度のCTAB処理を続けると大腸菌が変異し、CTAB耐性株が出現することを見出している。この耐性株の問題点は、一部の抗生物質にも耐性を示す多剤耐性菌である。また、DNAマイクロアレイ解析(CGHマイクロアレイ解析)によって変異部位の同定も行い、どのような変異が耐性化に寄与しているのかを明らかとしている。今後、変異が発生する機構を解析し、耐性菌が出現しない抗菌剤開発につなげるのが目標である。

2.大腸菌に及ぼす抗菌性界面活性剤の影響(活性酸素発生機構の解析)

大腸菌CTAB耐性株の研究から、活性酸素消去システムに変異が生じていることを見出した。そこで、細菌細胞内に発生した活性酸素を検出できる蛍光色素を用いて、CTAB処理した大腸菌細胞内の活性酸素の状態を蛍光顕微鏡を用いて観察している。その結果、野生型大腸菌ではスーパーオキシドや過酸化水素などの活性酸素が多量に発生している状態が観察されている。CTAB耐性菌ではこのような活性酸素の発生は検出されない。活性酸素の発生が抗菌性界面活性剤の大腸菌細胞に及ぼす大きな影響であると考えている。今後、活性酸素発生と細胞障害や細胞死について検討を加える予定である。

3.グラム陽性細菌に及ぼす抗菌性界面活性剤の影響

グラム陽性菌は、大腸菌等のグラム陰性菌に比べて抗菌性界面活性剤に一般に感受性である。このような細菌による感受性の違いは不明である。そこで、数多くの多剤耐性菌が単離されているグラム陽性菌、Staphylococcus aureusを用いて抗菌性界面活性剤処理(CTAB処理)による細胞内生理活性の変化を調査している。現時点では、CTAB処理による顕著な活性酸素発生は観察されていない。大腸菌細胞とは異なる影響があるのではないかと考えている。


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バイオフィルム形成過程の解析とバイオフィルム除去・洗浄法の開発

バイオフィルムは、固体表面上に形成される微生物細胞を中心とした膜上集合体である。バイオフィルムを形成すると、細胞は様々な薬剤に耐性を示し(薬剤耐性化)、また、バイオフィルムの表面との固着が強固なため、バイオフィルム除去・洗浄がむずかしくなる。我々の研究室では固体表面の改質により、バイオフィルム形成しにくい表面処理法を開発している。今後、バイオフィルム形成過程の解析から、バイオフィルム洗浄法の開発に取組む予定である。

バイオマス利用に関する研究

1.微細藻類を用いたバイオ燃料生産技術の開発

ラン藻や微細藻類は二酸化炭素を吸収し、光合成をとおして油脂生産が可能な生物である。我々はこの能力を活かし、バイオ燃料の生産系の構築を試みている。また、植物などのバイオマス利用に関する研究にも取り組んでいる。

2.バイオマス由来混合糖類からの有用物質生産

リグノセルロース系バイオマスはセルロース以外に、C5糖であるキシロースとアラビノースを乾燥重量で20~30%含むが、多くの工業用微生物はこれらのC5糖を利用できず効率化の妨げとなっている。そこで、糖利用能の拡大を目的としたキシロースとアラビノース代謝に関与する遺伝子の導入、副生成物経路の削除、導入遺伝子発現レベルの最適化、補酵素特異性の改変等について検討することで、有機酸・エタノール・キシリトール・アミノ酸などの有用物質を高効率で生産できる遺伝子組換え株を構築してきた。今後、物質生産に適した微生物の単離源と単離方法についても検討する予定である。

殺菌剤や農薬が環境に及ぼす影響の評価

環境汚染物質や農薬の中には、廃棄物が不法投棄されている場所の周辺では、国が定期的に報告している濃度よりも桁違いに高い値を示したり、元の化学物質よりも毒性が高くなった代謝産物が環境中から検出されることがある。また、化学物質の環境生態系への影響評価では、対象としていない生物への評価が追いついていない現状である。これまでに、土壌消毒剤や農薬による微生物を含めた生態系への影響を実験室内と野外環境中で評価してきた。これらの評価系にはメタゲノム解析手法も一部活用している。我々の身近で使用されている様々な化学物質が環境に及ぼす影響を評価し、環境負荷が低い化学物質の使用方法の提案をめざしている。

その他

この他に、「低分子量のシャペロンタンパク質である、Small heat shock prioteinの機能解析」や「細菌における活性酸素消去システムの解析」なども行っている。

このページには企業様との共同研究や受託研究は紹介していません。詳しくは研究室までお問い合わせください。

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